やり切った、と思う。もちろん、華々しい成果なんてなかった。J2リーグのプレイヤーとして、1シーズンやり切った。そこが俺の限界なのだろう。プロとして活動すればするほど、日本代表や海外に飛び立つ奴らとの差異が如実に感じられた。
結局怪我に泣いて、でも20代半ばで引退したことに対して後悔はない。すっきりとした青い空を楽しめるうちに楽しめた。これで十分だろう。
しかし、俺は次に、何をすればいいんだろう….。公園で一人黄昏ている。

「なぁ、…..なぁって!」
気づくとそこにはサッカー少年がいた。
そうだ、俺もこの公園でこれくらいの歳の頃に練習してたもんだ。
「なんだい?」

「兄ちゃん、Jリーガーだったんだって?」
「ああ、J2だけどな」
「俺、次の試合、絶対勝ちたいんだよ。教えてくんない?」
指導者、か。もちろんそういう道も考えなかったわけではない。しかし、この国のサッカーコーチの給料は低い。それだけで食っていけるのは、高校サッカー決勝常連校の監督くらいだろう。
かといって、それ以外にやれることがあるわけでもない。

「ねぇ、お願い!」
「いいよ、やってみる。ってことはお前は俺の弟子一号だな!」

「そうだね。ありがとー。」
「じゃぁ早速ドリブルを….」
「ドリブルより前にフィジカルだ。まずは走れ。走りきれ。ボールに触るのはそれからだ」
「押忍、わかりました、師匠!」
素直なやつだ。なるほど。こういうふうに素直に聞いてくれるのであれば、指導者ってのも悪くない。

少年は、来る日も来る日も、走る。
黙々と、走る。

「なぁ、師匠」
「なんだ、弟子よ!」
「なんで引退したんだ?師匠まだそこそこ若いだろ?」
「怪我だよ。それに、限界も感じたしな。」

「まだ、やれるんじゃねーの?」
「俺のことを気にしてる場合じゃないだろ?」
「まぁ、そうだな。もう一走りしてくるよ」
—試合の日—
試合とは言っても、特に大きな大会でもない。どうやら地元チーム同士の交流試合らしい。彼は彼なりにそこに意味を見出したのだろう。大事な試合かどうかなんて、本人だけが決めるものだ。

「師匠、行ってくるぜ!」
「おう、勝って、帰ってこい」

この歳の子らで、しっかりと走り込みをしている奴は少ない。あいつは俺の指示通り、走り抜いた。
ほとんどボールタッチを教えることはなかったが、体が出来上がっている分、キレがある。

チャンスがやってきた。そうだ、そこだ!

行ける!!!!!
………
揺らされるゴールネット。
ああ、そうだ、俺は、この瞬間のために、生きてきたんだった。

「師匠!やったぜ!」
「おお!!よくやった!」
その後、一進一退の攻防を繰り返したものの、最初の1点差を守り切って、勝った。
指導者としての喜びも、悪くない。

「師匠!ありがとな!」
「いや、こちらこそ、ありがとう。進むべき道がわかった気がするわ。」
「そうなの?」
「まぁいいや、飯でも奢るからウチに来いよ!」
「マジ?ステーキ?」
「せいぜいピザだよ。甘えんな。」
「やったー!ピザだー!」
安く喜んでもらえそうで何よりだ。

「ピザ、うめー」
「走り込んだ甲斐があったな。フィジカルがしっかりしてきたから、あとはそれに技術が追いついてくると思うぞ。」

「師匠には世話になったなー。なんかお礼しないと。」
「礼なんていらんよ。せっかくだから風呂でも入っていけよ。お前汗だくなままだろ。」

「ふ、風呂?い、いいよ、別に!」
「気にするなよ。背中流してやるよ。」

「そ、そうか。そうだな。それで恩返ししたらいいんだな?」
「?。まぁなんでもいいが。とりあえず、俺先に入ってるぞ。」
「ああ、先に入ってて」
ふう。湯に浸かりながら、思う。
高校時代の合宿が懐かしい。あの時は優勝を目指す仲間たちと寝食を共にしていた。合宿所の風呂で裸の付き合いをしていた頃が懐かしい。
プロになると仲間でもありライバルでもあるわけで、シャワールームですら緊張感があったわけで、あのワイワイした風呂という状況は、久々に楽しいものだ。
ガラガラ….
戸を開ける音がする。彼も入ってきたようだ。

「入るぜ….」
ああ、今の世代の子達は、公衆浴場に慣れてないんだな。恥ずかしいのだろう。
男だらけのサッカー部だったらタオルで隠すなんてありえないが、まぁそこは今の子達に合わせなきゃならんだろう。
しかし…..

しかし、だ。なんだろう。この込み上げてくるモノは…..。
「あんまり、見るなよぉ….」
「お前、なんか、…..ん?」

「なんか、お前女の子みたいな体つきしてんのな?」
「!!!!!!師匠、まさか!!!!!」

「俺、女の子だぞ!わかってなかったのか?」
「…..マジで?」
「マジだよ!なんだよ、もう!」

「ほら、女の子だろ!」

「ほら、背中流してくれるんだろ!」
「…..すまん。まだ頭の整理が追いつかない….」
「もう、本当にもう!覚悟してきたのに!」
「すまん、念の為、もう一度見せてくれるか?」

「ほら、どうみても女の子だろ!」
「いや、でも、お前さぁ、自分のこと俺、とか言ってんじゃん」
「いいだろ、別に、一人称なんて好きなの使えば!」
彼は、いや、彼女は、俺の前に座る。

「師匠、どういうつもりだったんだよ?俺、覚悟してきたのにさ!」
「覚悟ってなんだよ?」
「お礼だよ!お礼にえっちなことするつもりだったんだよ!」
「いや、でも、俺さっきまで男の子だと思ってたし」
「だから会話が噛み合ってなかったんだよ!」

「もう、俺一人で空回りしてただけかよ。」
「いや、そうでもないぞ。」
もう、隠しても仕方ないので、立ち上がる。もう一方の俺も、すでに立ち上がっている。

「え、まじ!」
「うん、まじ」
「勃起てやつ?」
「その通り。」
「すまん、我慢できそうにない。」

「….わかったよ。いいよ、そのつもりだったんだし。」
「じゃぁ、いいかい。」
「….いいけど….」

「初めてなので…優しく….お願いします」
「じゃぁ、こっちで、しようか….」

「はい…..」

「こ、ここでするの?」
「ここじゃいや?」
「お布団の方が、いい。」
とにかく急いで、寝室に行くことにした。

「入れて、いいか?」
「だ、大丈夫!」

「んぎっ!!!!!」
「大丈夫か?痛い?」
「大丈夫!師匠が気持ちいいなら…」
「じゃ、動くよ…」
「はい….」

「あんっ….ん….」
もう、「俺」ではない。女の顔で俺の上に座っていることがより、興奮を大きくする。

顔を歪めるのは痛みからか、快感からか。
体勢を変える。

「え?後ろから?」

「あん、そんな..子宮に….」

「中に….出すの….?」
「だめ?」
「……いい…..よ….」

「んあああっ、あああっ!!!!!」
脈動とリズムを合わせるが如く、喘ぐ彼女。

「あー、痛かった….」
「ごめんな。」

「水臭いこと言うなよ。お礼だよ。」
こうしてみると、どうみても女にしか見えない。俺は今まで何をみてきたんだろう。
「お前のさ、そのちょっと怒ったような顔、好きだけど。優しい表情も見たいな」
「もう….」

「こんな、感じ?」
「ちょ、待って!貴重な笑顔だから写真撮る」
「勝手に誰かに送っちゃ嫌だよ!」
「当たり前だ。俺だけの家宝にする。」
写真を撮りまくることにした。

「お、いいねぇ。いい笑顔!」

「まだちょっと硬いかな?」

「そう、素晴らしい!」

「横からのアングルもエロくていいね」

「いい、すごく、いい!」

「なんで、これを男だと思ってたか、わからん」

「いいね、最後の砦を守る感じが出てる」

パシャっ、パシャっ!

「全部見えちゃってるね」

「もう一回、する?」
「….はい…..」
その後、一回で済むはずはなかった….。